「…当店はドイツの東洋更紗商人が経営しておりますが、
いまここにあるだけの星を蒐め得たのは、めずらしいことだと
同業者間にうわさされているほどでございます。
…
―それはそうといたしまして、あちらではあまりに星を採りすぎたために、
天が淋しくなって、もう今日では遠方に残っている星だけが
チラホラと光っているにすぎないと申します」
「なるほど!―でも、候補地はぞくぞくと見つかっているのでしょう」
「候補地ですって?」
「そう、アンデス山、パミール台地、崑崙山、富士山というぐあいにね」
稲垣足穂「星を売る店」