アロイーズ展

 

ワタリウム美術館で開催中の「アロイーズ展」に行って来ました。アロイーズ・コルバス(1886-1964)はスイス生まれ。31歳の時に統合失調症と診断され、40年以上にも及ぶ入院生活で描き溜めたきわめて個性的な絵がアウトサイダー・アート(アール・ブリュット)の代表格とも目されている女性です。

展示でまず印象的だったのは極彩色の色使い。特に多用するオレンジ色やピンクが彼女の官能の世界にマッチしています。官能ということばを使いましたが、そこには肉体的な重さや体温は感じられません。リアルではなくあくまでファンタジーや夢としての官能。登場人物の目がサングラス状に青く塗りつぶされているのが非常に特徴的なんですが、解説には「青く塗りつぶされた目は盲目を意味し、そのことによって彼らが存在しないことを象徴する」という誰かの分析が引用されていました。この「存在しない」というのはファンタジーの意味だとすると納得です。

ボール紙の切れ端や雑誌のページに色鉛筆やクレヨンで空想をばら撒いたような作品に近づいてよく見ると2枚の紙を糸で縫って繋げてあったりしますが、縫い物の係りを自ら進んで担当していたという彼女がほんの少し身近に感じられた気がして、改めて作品を眺めてみるとファンタジックな官能性とともに、そこにはある種の微笑ましさがあるのでした。いかなる美術教育を受けることも、また誰に影響されることもなく、ただ好きで絵を描いてたってのもいいですね。絵が売れ出した晩年に助手のような役割として雇われた理学療法士があれこれ絵に注文をつけたことで創作意欲をなくし衰弱死したというのはクリエイティブであるということに関してとても示唆的なエピソードだと思います。

オペラに通じ若い頃ドイツのヴィルヘルム二世のサンスーシ宮殿で働いたこともあるアロイーズの絵画にちりばめられた意味や象徴を解読することは私にはできませんが、評価や地位や見返りとは無縁の場所でひとり豊穣な宇宙を想像/創造し続けた彼女の姿はある意味表現する人の理想像かもしれないなと思った次第です。 (2009年8月)

更新

2018-7-11

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La fotografio kaj kolaĝo

per Akihiro Kubota

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